今月の編集長おすすめのポエム

「砂漠を歩く」井本元義
「樋井川を見下ろすカフェで」 岬 龍子

※過去の作品はこちらから

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「砂漠を歩く」井本元義

砂漠の果ては漆黒の闇が輝いている
それを征服せんと
誇り高きパルナシアンは進む
固い靴は砂に埋もれて進めない
嗚咽の声は砂嵐に消え
周りには誰もいない
そのまま干からびていく
どこまでも乾燥した苦しい風が吹く
赤ら顔の少年詩人は
片足を切って捨てても歩く
果てがないのを知っているのに
何故だか怒りの沈黙を抱いて
灼熱の中を歩き続ける
誰にもわからない闇に消える
赤子を抱えた貧しい女は
砂漠の果てに
雨が降っているのを知っている
やっとそこにたどり着き
甘い水に喉を潤してから
雨に溶けて砂に浸み込んで消える
砂漠に墜落したパイロットは
その果てに
海が広がっているのを知っている
冷たい星を見つめて歩いてたどり着く
波打ち際には
ちぎれた首や手足がばらばらに捨てられて
眼は見開いているが何も見ていない
動かぬ紺碧の海を映しているだけ

肺を病んだ少年は
砂漠の果てに
雪が降っているのを知っている
砂は粉雪のようにさらさらで
脚に優しくまとわるので
ほんの少ししか進めない
雪の砂に抱かれる心地よさ
夢の雪は舞いながらきらめいて
少年は倦怠の雪に眠くなる
ああ もう死んだってかまわない
歩きながら死んでいく
村の廃墟のまぼろしに残した薔薇は枯れ
オアシスのぬるい水は忘れ
決して溶けない清浄の雪に沈んでいく
残酷な月に照らされた砂の丘は広がり
果てのない純白の美しい曲線
巨大な女体
悠久の母体よ
それは死を育んでいる
      倦怠のうちに死を夢む 中也

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「樋井川を見下ろすカフェで」 岬 龍子

おれ、先に逝くよ
そうなの?
うん
あっちでも会えるかしら
会えないだろう、献体したら「無」だ
切り刻まれて昇天
私、臓器など秘密多くてあげられない
君は無傷なままで焼いてもらうんだな
恐ろしや胸に双つの瘤がある、だもの
燃えきれずにブスブスと焦げ残るかも
世話になったね
……
贈り物をしようと思う
いらないわ
何か欲しいものは?
そうねえ、じゃあ有田焼の生殖器を
そうか、困ったな

寡黙になったふたりは
夕暮れの樋井川に目を落とし
流されていく笹小舟を見送るのでした