7月の編集長おすすめのポエム

「見て 見て」 寺山よしこ
「胸像」角田真由美


「見て 見て」 寺山よしこ

作業所の利用者たちが
絵画 切絵 貼り絵 デザイン……と
黙って 制作に取り組んでいる

「今度描いた電車の絵を見に来てね」
と 葉書をくれたヒデさんはどこかに出かけていた
ヒデさんの電車の絵はどこだろう

作業中の彼らが手を止めて
私の動きを目で追っている

やっと見つけたヒデさんの絵
細かく描き込んで 電車の緑色が深い
「うーん すてきな絵ですね」
施設長と話していると
また 私をちらちら見る彼等の視線

作業台に近づくと ぱっと振り向く男性
「これはひこうき」
マジックで描いた線描きを指さす
「いいねえ ひこうきが好きなの」
「こっちもとんでいるよ」
と また描く

横から 女性が差し出す画用紙には ぺたぺた ハンコがいっぱい
「すてきな色づかいだね」
と言うと 口をもごもご

今度は後ろから 貼り絵が差し出される
見て 見てと

次から次へと 見て 見てと


「胸像」角田真由美

執念のように雨が降り続いた
雨は頭や肩を打ち続ける
試練を与えるように 容赦なく頬に落ちた
涙のように頬を濡らす
先月は渇水に悩まされた
地面は乾ききって、砂埃が瞼を覆った
唇はひび割れ、喉は水を欲した
あれほど雨に恋焦がれたのに 今は憎んでいる

私のまえには小さな世界が見える
春には公園の桜の巨木が花を誇った
花びらの中で人々が集まり物を食べ酒を飲んで騒いだ
夏の夜は櫓の下で歌い踊り狂った
秋は運動会で子供たちは走り回った
冬は子供たちが降り積もる雪に狂乱した

誰も私を見向きもしない
まるで存在しないかのように
若い男女は暗闇の中で卑猥な言葉で愛を誓う
中年の夫婦は罵り合い憎しみの言葉を吐く
子供たちは一人の子を殴り虐める
老女は長い夜を公園のベンチで世の中の過酷さをつぶやき続ける
私は彼らに見えないのか だれも私の名前を呼ばない
公園の真ん中に存在する私は何者か
私にもたしかに名前があった
私は誰かを愛したことがあるのか
誰かが私を愛したことがあるのか

あの日の記憶は鮮やかに残っている
突然顔を覆う布が剥がされ眩しい光が私を襲った
老若男女集まり、私の名前を叫び拍手し笑っていた
中心に紋付袴の盛装した男がいた
彼は誇らしげに笑っていた
花束を受け取った男が私を見た
驚いたことに男は私と同じ顔をしていた
視線があった
目の奥には暗い憎しみが見えた
私を憎んでいるのか ほかの誰なのか 自分自身なのか
私だけがかれの悲しみに気が付いた

あの日から私は永遠の命を手に入れた
昔 皇帝や王や権力者が手に入れようと熱望した永遠の命
うんざりするような永遠の時間が私を苦しめる

その朝も私は同じような平凡でつまらない日常を過ごすはずだった
眩しい日差しがビルの間から差し込んできた時
大地が割 ゆらゆらとビルが揺れ 崩れ落ち
ブランコや滑り台が倒れ 砂埃が舞い 視界が一変した

地震だと泣き叫ぶ人々がどこからともなく現れ集まった
子供が瓦礫の下敷きになった 妻がみつからない 足がいたい 水が欲しい
世界が終わるのだ 私の無限の時間が終わるのだ 何かが変わる
視界に立ちふさがるビルの代わりに澄みきった大空が現れた

私は今も公園の中心に存在し続ける
あれほどのことが起きたのに何もなかったことのように時は続いている

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